歯科矯正用アンカースクリューについて ②

①上下顎臼歯部頬側への植立
上下顎ともに、歯根間距離が広く、皮質骨の厚みもある第二小臼歯と第一大臼歯の間や、第一大白歯と第二大臼歯の間が、スクリュー植立に適しています。
上顎ではセメント-エナメル境(CEJ)から5mm以上、下顎では3mm以上の部位が、歯根間距離が3mm以上あり、植立に適したポイントとなります。
特に、前歯部開咬症例に対する大臼歯の圧下では、第一大臼歯と第二大臼歯間へのスクリュー植立が極めて効果的です。頬舌的に顎堤に幅がある症例では、歯根との近接も起こりにくいです。
なお、下顎頬側は、上顎に比較して付着歯肉や顎堤の幅が狭く、歯冠や歯根への近接が起こりやすいため、一般的に下顎頬側のスクリューの成功率は上顎に比較して低いと考えられています。


②白歯部口蓋側への植立
口蓋粘膜が3mm以上あるため長いスクリューが必要ですが、皮質骨が厚く歯根間が十分に離れているためスクリュー植立に適した部位です。
特に舌側にマルチブラケット装置を装着する症例では、同部にスクリューを植立することで治療メカニクスを単純化することができます。
小臼歯抜歯症例や大臼歯圧下が必要な症例では第一大臼歯と第二大臼歯の間、小臼歯非抜歯で遠心移動を行う症例では第二小臼歯と第一大臼歯の間が適しているとされます。


③ロ蓋正中部への植立
スクリューが歯に近接する可能性がないことが同部位へのスクリュー植立に際して最大の利点です。
上顎歯列の遠心移動や、前歯、臼歯の圧下、小臼歯抜歯症例の最大固定などに用いられます。
しかし、荷重に際してトランスパラタルアーチやリンガルアーチなど何らかの補助装置が必要となることが多く、患者の不快感が強くなったりメカニクスが複雑となったりする欠点があります。
また、正中口蓋縫合は鋤骨の裏打ちのために5〜6mmの骨厚があり、維持を得る十分な皮質骨が存在しますが、スクリューの埋入トルクが過剰に大きくなる可能性があるため、セルフタッピング法を用いたり、正中口蓋縫合を避けてやや外側に植立するなどの工夫が必要です。


④上顎および下顎前歯部への植立
ガミースマイルや過蓋咬合の治療では、上顎前歯部の歯根間へのスクリュー植立が有効です。
特に上顎側切歯と犬歯の間は犬歯歯根が遠心に傾斜していることが多く、スクリュー植立に十分なスペースが存在します。
上顎歯列正中部に植立すると、スクリュー1本のみで前歯を圧下できますが、上唇小帯の付着部位によっては植立が難しいこともあります。
下顎の過剰なスピーの湾曲が原因で過蓋咬合となっている症例では、下顎前歯部にスクリューを植立して前歯を圧下することができます。
ただし、付着歯肉の幅が少なかったり、歯が小さい症例では歯根間の距離が狭くなるため、植立には注意が必要です。


⑤頬骨基部、下顎臼歯部への植立
いずれも骨量が十分にあることから、スクリュー植立に適した部位です。
頬骨基部に植立したスクリューは、大臼歯の圧下による前歯部開咬の治療等に有効です。
下顎臼歯部への植立は、下顎歯列全体のアップライトや、遠心移動を目的としたスクリューの植立に適しています。
しかし、可動粘膜に覆われているため、スクリュー植立には粘膜切開が必要であることから、患者にとっての侵襲はやや大きいです。
またスクリューが粘膜下に埋没しやすいため、長く太いスクリューを選択したり、スクリューヘッドに結紮線などの付加装置を装着して口腔内に露出させておいたりするといった工夫が必要です。



スクリュー植立時に解剖学的に注意が必要な構造物として、上下顎臼歯部頬側では小臼歯根尖近くのオトガイ孔、臼歯部口蓋側では第二大臼歯の根尖近くの大口蓋孔、口蓋正中部では口蓋前方犬歯間正中部の切歯管があげられます。
いずれも通常セメント-エナメル境(CEJ)や切歯から10mm以上離れていることから、神経や脈管にスクリューが接触する可能性は低いですが、CBCTやエックス線写真を用いて十分な精査を行った後に植立部位を決定すべきであり、スクリューの長さや太さにも配慮が必要です。


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